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2人は永遠の愛を誓ってしまってよいのか問題(「数学ゴールデン」単行本発売記念)

こちらのブログ記事は、新増刊ヤングアニマルZEROで連載中の「数学ゴールデン」に投稿されたコラムになります。担当者様のご厚意により、掲載させていただけることとなりましたのでぜひご覧ください。


さぁ、運命の日。指輪を交換し、神父の目の前で、2人は、「永遠の愛」を誓う。

・・・え、ちょっと待ってください。何かがもやっとします。そう、「永遠の愛」です。「永遠の愛」なんてあるのでしょうか。永遠の愛が存在するのかわからないのに、誓ってもよいものなのでしょうか。いや、「愛」はあるに決まっています。私だって、いや、皆だって愛を感じているでしょう。

だとすると、曖昧なのが、「永遠」です。永遠はどのくらい長いのでしょうか。もちろん、ずっと続くんだろうなぁとぼんやり考えることならだれでもできると思います。しかし、それが具体的にどのくらいの長さなのかはイメージできるでしょうか。

 わかることは、「永遠」はきっと時間の長さのことでしょう。無限に続く時間の長さのことなのでないでしょうか。我々が考えうる限りの時間の長さを考えてみましょう。まずは、生まれてから死ぬまでの時間です。人の一生は、たったの約80年。日にちにすれば約30000日、秒数にしても、25億秒程度しかありません。

もっと長い時間、考えうる最大の長い時間は、おそらく宇宙が始まってから、今現在にいたる時間でしょう。宇宙は約137億年前に始まったと言われています。137億年は、あまりに長すぎる時間のように思えますが、数学では、指数表記という方法があり、10^nという形で表現することができます。1の後に、0がn個続く数になります。すると、137億=1.37×10^10 という形で表現されます。1のあとに0が10個続く数です。10^10年は、果たして無限なのでしょうか。いや、無限とはほど遠いほどの小ささですね。だって、数字をもっと大きくすることができます。10^20とか、10^30となるように、1の後に0をもっとたくさんつけることができます。

であれば、もっと別の、現実的に考えることができる「大きな数」を考えてみます。例えば、この宇宙を構成する原子の数を考えるとどうでしょう。宇宙は我々が接する空間の中で最も広いものです。しかし、その原子の数はたったの100000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000個(0が80個程度)しかありません。つまり、10^80個程度となります。すごく、大きそうな数に見えます。なぜなら、我々の肉体や地球、太陽、いや肉眼で見える星や見えない星ですら、すべて原子でできているとすると、我々が想像しうる最大の数と言っても過言ではないくらい大きな数です。が、果たしてこれは無限個あると言えるのでしょうか・・・。

実は、数学では、もっと大きな数を考えることができます。それは、「指数計算の反復」を考えようという試みです。3^3^3を考えるということです。3の右肩の上に3と、さらにその右肩に小さな3を書きます。これは、右上の3^3を先に計算します。つまり、3^3^3=3^27=約7.6×10^12 となります。実はこの考え方を繰り返すだけで、凄まじいレベルで数が増えていきます。3^3^3^3を考えてみると、その数は、もはや凄まじく、3^(7.6×10^12)=10^3.6兆 となります。宇宙の原子の数を余裕で超えてしまいました。指数計算の反復はとてつもなく大きな数を生み出します。3の右上3を繰り返し3回書いただけ、3という数字を4つ書いただけで、数が爆発的に増えてしまうのです。3を4つ並べるというのは、タワー表記で記載すれば、「3↑↑4」(3を右肩に合計4つ並べると解釈してください。)とシンプルに表現ができてしまいます。こんな簡単に宇宙の原子をも超える数を表現してしまえるということは、宇宙の原子の数はものすごい小さな数に思えてきませんか?数学の世界は、我々の肉体、地球、そして宇宙をも簡単に超えてしまうことができるのです。これが数学の威力です。

それでは、「3↑↑10」はどのくらい大きな数になるでしょうか。まさにあまりに大きな数に心が圧倒されるくらいの大きな数がそこに現れます。しかし、知っておいてほしいのは、この数でも、無限には程遠いほど小さいということです。なぜなら、「3↑↑100」ならもっともっと大きいですね。もっと大きな数は数学の世界では簡単に作れてしまいます。

 もちろん、もっと簡単な無限の表し方を我々は知っています。それは、「∞」という記号です。8という数字を横にすれば、簡単に表現できます。しかし、その∞という言葉は、いうのは簡単です。実感するのが非常に難しい。我々が大きな数だと信じてきたものは、ものすごい小さな数だと考えられるからです。

数学の世界は、この宇宙という枠組みを超えてしまいます。まさに思考そのものでしか、数学を実感できないかもしれません。宇宙をも包み込んでしまうくらいの数学の世界がそこには眠っているのです。

さて、ここまで考えてくると、数学の上では、もっと大きな数を考えられるにも関わらず、いや、人の一生ですら全く無限に続いていかないのに、「無限に続く愛」を考えてしまっているのは少しもやっとするかもしれません。

 逆に考えれば、人間の一生は有限です。我々は、有限の檻の中に閉じ込められているからこそ、「永遠」、「無限」への憧れがより強くなってしまうのかもしれません。永遠という響きは、多くの歌の歌詞にもよく現れますよね。そんな一種のロマンが、2人に永遠の愛を誓わせているのかもしれませんね。


さらにコラムを読みたい方へ

このコラムを掲載させていただいた「数学ゴールデン」が6月26日に単行本1巻が発売となるそうです!しかも、このコラムを執筆した堀口のコラムが2つも収録!!

・「考えてもわからない」のが数学
・女心は「f」である

どちらのコラムも堀口の体験談を含む数学の面白さをさらに楽しめるコラムとなっています。ぜひご購入いただき、ご覧ください。

漫画「数学ゴールデン」のおもしろさ

「数学ゴールデン」は、数学オリンピックを目指す少年少女の人間ドラマが織りなす数学漫画です。何より義務教育で学ぶだけではない数学への向き合い方も漫画の中でしっかり描かれており、「そうそう!わかる!」と共感の嵐(笑) つい読み込んでしまいます。くすっと笑えるギャグもたくさんあるところもとてもよいです。数学に一度はのめりこんだことのある人は共感するし、これからのめりこみたい人は引き込まれ、数学の面白さがよくわかっていない人には新たな発見と、「数学も実は人生と同じだった」・・・と気づける最高の漫画であると思います。ぜひ1巻だけでもご覧ください。

参考リンク

数学ゴールデン 1 (ヤングアニマルコミックス) (日本語) コミック – 2020/6/26
藏丸 竜彦 (著)

漫画「数学ゴールデン」