我々は、本当に長生きになりました。
80歳まで生きるというのが当たり前になりました。これはもちろん、少し前までは当たり前ではありませんでした。平均年齢60歳まで生きればまぁ良い、そんな時代が日本にも過去にはあったのです。
日本人の平均寿命が50歳を超えたのは戦後
我々は何歳まで生きていたのか。戦前から、その「寿命」については記録が残っています。「完全生命表」によると、第1回に1891~1898年の記録が残っており、男性は42.8歳。女性は44.3歳という記録が残っています。(引用:第19回生命表(厚生労働省))
つまり、45歳くらいまでしか生きれなかった・・・と解釈しがちなのですが、実は、正確にはちょっと違います。
昔は、男性・女性がそれぞれ20歳のときの「平均余命」という概念の方が重要になります。20歳まで生きた人がこれから何年くらい生きれるのか、女性も20歳まで生きれた人がこれから何年生きれるかという指標になります。
これは、男性20歳のときの平均余命は、39.8歳。女性20歳のときは40.8歳。
つまり、20歳+約40歳で、男性60歳、女性61歳が寿命と考えていただけたらと思います。
なぜ平均年齢と、平均余命でここまで差が出るのかと言えば、新生児、乳児が亡くなることが多かったからです。0歳のときに亡くなればそれだけ平均寿命を押し下げる結果と言えます。最初の関門である乳幼児の時期を過ぎて20歳のときから何年くらい生きれるか、はかなり実感に近い数字になると思います。
ここと比べてみます。
現在の平均寿命と比べてみる
現在(平成30年の生命表を基にすると)、平均寿命はが男性81.25歳。女性87.32歳。
よって、先ほどの約120年前のデータと比較すれば、男性が21歳も長く生きることができ、女性は、26歳も長く生きれるようになりました。
男女平均すれば、約23~24歳も長く生きれるようになったのです。これは、大変すばらしいことです。衛生環境、医療インフラの発達だけでなく、福祉の充実によって、長生きすることが許容される社会となりました。誰もが長生きすることが当たり前になりました。
しかし、このすばらしさと引き換えに、一度手に入れたものを失う怖さを同時に感じてしまいます。
平和ボケなんていう言葉もありますが、失わないと今あるものの大切さに気付けないというのも人の運命でしょうか。人は、手に入れたものを奪われると、マイナスの感情を強く感じ、同じものを手に入れてもさほど(マイナスの感情ほど)プラスの感情は抱かないという行動心理学の研究により明らかになっています。
※参考までに平均寿命の推移のデータをこちらに掲載しておきます。(引用:主な年齢の平均余命(厚生労働省)より抜粋 )
コロナウイルスによる寿命の影響
しかし、今回のコロナウイルスによって、「平均寿命に影響はあるくらい世界にインパクトがあるのか?」と言えば、時代の変化を超えるくらいの影響はほとんどないということができます。
まず、順を追って説明していきます。
「IFR」という数字があります。これは、「感染致命割合」のことで、感染した人が亡くなる確率のことです。「感染」西浦先生の研究グループでも算出しておりますが、今現在わかっている範囲で、約0.5~1%程度となっています。(引用:How deadly is the coronavirus? Scientists are close to an answer(nature))
我々がよく触れている数は、CFRと言い、「致命割合」のことで、感染が確定と診断がついた方に対して亡くなった方の割合を言います。現在の日本では、2~3%程度の方が亡くなっています。これは、感染確定した人の割合が少ないために、IFRの値よりも大きくなってしまうのです。(分母が小さく、分子は同じ大きさのため、結果的に、その分数の値が大きくなってしまう。)
このIFR、感染致命割合の数字を元にすれば、日本の人口の最大50%程度が感染すれば、約6000万人が感染したことになり、30万~60万人くらいの犠牲が出ると考えることができるのです。これは、西浦先生が4月に算出した最大42万人の方が亡くなる可能性がある、という発表と近い数字になります。
コロナで亡くなった方の平均年齢はどのくらいか?
実は、ここでもう一つ、大切な数字をご紹介します。
コロナウイルスによって亡くなった方の平均年齢です。日本での死亡者の平均年齢は79.3歳であることが発表されました。(引用:東京の死者、4~5月集中 半数超が院内や施設内で感染)平均寿命との差は、約4歳。コロナウイルスが日本最大まで感染が広まったとしても、わずかに平均寿命が減る程度と予想されます。おそらく1歳前後のインパクトでしょう。(簡易的な計算方法は最下部へ。)
つまり、時代の変化を超えるようなインパクトは、コロナウイルスにはないと言い切ることができます。コロナウイルスが最大まで広まったとしても、130年前の寿命の変化におけるわずか1/20程度の影響です。
我々は相対的な恐ろしさを感じている
今、我々がコロナウイルスに感じているのは、「相対的な恐ろしさ」です。この脅威は、絶対的な恐ろしさでは決してありません。誰かからナイフを突きつけられている恐ろしさではなく、タンスの角に小指をぶつけるくらいの恐ろしさなのです。
なぜなら、130年前に生きることは、コロナウイルスの存在よりも、今の時代よりも遥かに危険な行為です。まさにナイフを突きつけられながら生きている時代と言っても言い過ぎではないはず。少なくとも平均寿命から考えれば、そのように表現することができます。
今、すべての医療や衛生環境が100年前に戻ることを思えば、今ある環境のすばらしさを感じ、感謝できると思います。最悪でも、たった20分の1です。今あるものを失ってしまうことは怖いかもしれませんが、すべて失うよりはマシです。
失う前に、今ある状況に感謝し、安心と共に日々を歩めるかどうか。大局的に見れるかどうか。大きく見てみれば、相対的には問題は何もないのです。(タンスに小指をぶつければだいぶ痛くはあるのですが)
100年前に比べれば、人類は大きな進歩をしているのですから。
計算方法
正確に計算しようとすると大変ですし、理解できない人も増えると思いますので、ざっくり計算します。現在毎年亡くなる方が120万人。コロナで最大亡くなる方が40万人と仮定したときに、人数の比は3:1。現在の亡くなる方の年齢は、83歳としたときに、コロナは79歳なのでその差は4歳。よって、重みづけ平均の公式によって、1歳程度の平均年齢が下がることが計算によって算出されます。あくまでざっくりとした計算ですのであしからず。