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分数ができない大学生は、そのまま大人になっている

数年前から、「大学生」であるのに、分数がわからない・・・という人がいることが社会問題の一つになっています。理系の人からすれば、「え!そうなの?」、と、珍しいように思うかもしれません。どうやらこれが”驚くべきこと!”として語られているようなのですが、大人のための数学教室や算数教室をやってきた身からすると、ごく当たり前の光景です。

うちの教室には、

「本当は小学生や中学生のときこそきちんと学ぶべきだったけど、今大学生になって就職試験対策で困っている。」

「経理の仕事で、数字を扱ってはいるけれど、実はほとんどわかっていない。」

という必要に迫られた多くの成人を超えた方が学びに来ます。

その学びにきた方は、もちろん、中卒・高卒の方もいれば、大学をふつうに卒業していらっしゃる方も多くいます。

「大学に行ったからには、さぞかし、数学もできるのだろう・・。」

と思うかもしれません。しかし、実態はそうでありません。数学はできなくても受験科目になければおよそほとんどの人が大学生になれてしまいます。

 

分数のできない大学生

私も、分数のできない大学生の個別授業を行ったこともあります。小数や分数ができなく、2桁の掛け算の筆算のやり方など、基本的なところから授業を行いました。その大学生は、中学数学程度までは理解できるように、約1年間かけてしっかり学んでいただきました。

しかし、分数ができない大学生がいる!と、バカにできるようなものではないと考えています。もちろん、個人の責任にしがちですが、人によって全く違う理解度の中で、同じクラスの中で学んでしまうと、「ついていける子」と「ついていけない子」、「ついてはいけてるように見えて納得はしていない子」などにわかれます。ネックになるのは、2番目と3番目の子たちです。

ついていけない子は、補習授業を行うなり、テストもできないのでわかりやすい対応ができます。しかし、ついてはいけるように見えて、実は全く理解していない子がいたりします。ようは形式的に問題を解いているだけで、わかってはいないのです。このような子は、応用問題が全く解けなかったり、どんどん高度な内容になっていくといずれ理解がよりできなくなってきます。

算数に一度挫折してからは、取り戻すのが大変です。一から学ぼうにも、授業はどんどん進んでいきます。基礎がわかっていなければ、その授業はあまり理解できず、補習で補うような日々。あまり効率的な学習とは言えません。だから、分数は挫折したままになってしまった。計算はできるけど、公式に沿っているだけなので、ふとした瞬間に忘れてしまう。

中学数学になると、分数が方程式の中にも現れ、数字ではなく、文字になる。抽象化が進んだ世界の中で分数を扱う形になってしまう。中学生になってしまえば、より、小学校算数から学び直すのはより厳しいものになりますし、さらに、高校生ならなおさらです。

例えわからなくてもなんとなくテストで赤点を取らないような対策が求められ、完全についていけなくなった方は、「文系」で一括りにされる数学を今後一切学ばないコースに移行されるのです。

大学生で分数ができないというのは、そこまで救いの場がなかったということです。

もちろん、分数がわからなくても生きてはいけますが、より自立した生き方をするためには、数学の基礎的な考え方、特に算数については大いに学ぶ必要があると考えます。

 

分数のできない大人たち

分数ができない大学生の行き先は、そのまま大人になることです。もちろん、分数をきちんと学んで習得してから社会人になっていく方もいるかもしれませんが、多くの場合、そのまま大人になる方が多いと思います。

分数のできない大学生が注目されたきっかけは、あくまで大学教員目線ではあると思いますが、分数ができない大人たちの方が本当は数がずっと多いのです。事業者やサービス提供者はこれを理解しています。小学生に発するように数字を発信していかないと理解してもらえない。常にセンセーショナルな数字がメディアに溢れています。

これは大きな社会問題であると思います。分数は算数の一つの分野にしか過ぎません。分数や算数ができないことは、数量的な計算や物事を量で把握する力が少し欠けていると予想できます。そんな方が、物事をより的確に、網羅的に、合理的に、判断できると言えるのでしょうか。

実は、世の中で言う「理系」と言われる学生は思ったよりも少ないのです。文系・理系と2分されているので50%ずつな気がしますが、実は、9:1くらいで理系が少ないのです。文系の方がほとんどです。実質9割以上。(ただし、理系の定義によって、もう少し割合が多くなります。)あまりこれは知られていないことです。

分数ができないことが直接困ることになるのはきっと大人になってからです。分量がよくわからなかったり、目標までの達成度から、目標の値を概算する計算や、前年比売上高の計算はできると思いますが、きっと意味まではわからないわけです。

大人でも学べる、何度でも学べる、一度諦めても立ち上がれるやさしい学びの場が今、求められているのです。

<文/堀口智之>