ちょっと前によくニュースになったのは、高齢者の方の「交通事故」。
本当に多い。
・・・印象があります。
ニュースで毎日のように取り上げられると、非常に多く見えますが、しかし、実際にどのくらい多いのでしょうか。
実は、2018年の第一当事者(事故の主原因になった方)が高齢者の方だったときの事故の件数は、「5860件」で、10年前から比べて約1000件ほど落ちています。(2009年は、6883件でした。)10年前から比べてみれば、高齢者の方の事故件数は約15%減少しているというのが現実です。
・・・ということでここまでで結論が出てしましました。
実は、もう少し観察してみると、高齢者の方の交通事故の件数自体は落ちていますが、全体における割合は増えています。
これが、増えていそうに見えるトリックです。
実際のところ、警視庁のWEBから図を引用すると、以下のようになっています。
10年ほど前は、交通事故全体に占める高齢者関与の事故の割合が12.2%しかなかったものが、今では18.0%と、5.8ポイントものアップになっています。
そう、全体に対する割合が増えているから、まぁ「増えている」という言葉で置き換えてもいいのかも・・・ということですね。「増えている」と一言で言っても量が増えているのか、割合が増えているのかで印象が変わってきますね。
しかし、これほどまでに高齢者の方の交通事故が注目されるのはなぜでしょうか。
一歩先の数字力
もしかすると、高齢化もあって、事故が増えているのかも??
と疑問に思う方もいると思います。
実際に、平成21年では、15.4%が高齢者の方の免許保有割合(免許保有者全体が分母)だったものが、平成30年では、22.6%まで増加したのがあり、7.2ポイント増えてますから、高齢者になっても運転し続けている人が増えているといえるでしょう。(もちろん、免許を保有しているからといって運転しない人もいますが。)
しかし、22.6%も免許を持っているのに、たった18.0%しか事故を起こしていない?と考えると、誰が事故を起こしているのか気になりませんか??(そもそも22.6%の免許保有割合であれば、22~23%程度事故を起こしていてもよさそうです。)
そこで、各年齢で区切って、それぞれの「事故件数÷免許保有件数」を計算します。すると、各年齢ごとに、免許を持っている1人がどのくらい事故を起こすのかという割合が算出できます。それをグラフに起こすと面白いグラフになります。
実は、若者の方が圧倒的に事故を起こしやすいのです。
16~24歳までの人が事故を起こしやすいことが明らかにわかります。わずかに75歳以上になると、確率が上がることがわかりますが、16~24歳までに比べると、圧倒的に上がり方が低いことがよくわかるのではないでしょうか。
さらに考察をしていくと、75歳以上の高齢者が原因の事故が多い・・・と言っても、実は交通事故全体の7.9%しかない・・・などの事実もわかってきます。量で言えばそれほど多くないのです。
当然、交通事故ですからもちろん1件でも起きていいものは一つもないと思います。ただ、飲酒運転のように、明らかに事故を起こしやすい状態で運転することのように、加齢によって判断能力が鈍ってしまい明らかに事故を起こしやすい・・・ということであればなるべく避けたいというもの。そこは確かにその通りなのですが、ニュースで取り上げられるから、「最近高齢者の方の事故ばっかり起きて・・・」というわけではないことに注意が必要です。
ここまで考察してわかったのは、「高齢者=事故を起こしやすいという事実」より、我々が、「高齢者だから当然事故を起こしやすいだろう。」という思い込みがあって、だから高齢者はダメなんだ、というストーリーを作りやすいからこそ、事故が多いという風に見えてしまっているのかもしれません。
冷静に数字で観察すると、いろいろなことが見えてきます。
メディアの言っていること、みんなが言っていることが正しいのではなく、冷静に数字で見てみると新たな事実が見えてきて、自分の中の常識が置き換わるのです。
よりよい社会のために、客観的な「数字」という新たな眼をもって世界を見て、感じて、楽しんできましょう。
参考URL
<文/堀口智之>