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いつになったら「数学ができる」と思えるようになるのか

弊社では、数学のセミナーを数々開催していますが、その中で、面白い出来事がありました。とある50人規模の数学セミナーを開催したときのこと。

数学セミナーが始まる前、どんなお客様がお越しになっているのかアンケートを取ってみることにしました。属性がわかることで、よりみなさんの心に響くお話ができたりするので。

「数学のことはあまりわかっていないという人、手を挙げてください。」

と聞いてみました。あとから考えれば、この質問がよくなかったのかもしれません。半分くらいの方が手を挙げる中、その中で講師としてお呼びしていた日本を代表する数学者の方が手を挙げていたのです。

これは本当に驚きで、その先生が手を挙げるくらいなら、全員が手を挙げなければいけないと思うのですが(笑)、そうでもなく、ある程度自信を持っている人もいるようでした。

でも、私も数学をわずかながら勉強してきた身として思うのは、数学は学べば学ぶほどその圧倒的な数学的世界を感じ、これまでいかに何もわかっていなかったかと落ち込むことも多いということです。(もちろん、基本ワクワクした気分で学んでおります。)・・・私自身、数学のことを本当にわかっているのでしょうか。

いや、正確には、もっと数学に対して自信を持っていた時期はたしかにありました。どんな問題があっても解ける感覚。高校くらいのときでしょうか。誰も解けない高難易度の問題を解いていた、自分が確かにそこにいました。数学に対して自信もありました。そんな自分も「すごい。」と誇りにも思っていました。

しかし、どうでしょう。

大人向けの数学塾を開いてから、多くの方に数学を教える中で、自分自身がいかに無知かということを嫌というほど向き合うこととなりました。

今となっては自信がありません(笑)いや、一般的に、皆さんと比べて相対的には数学はできる方だとは思います。しかし、「数学をわかっている」かと言えば、どうでしょうか。実は何もわかっていないかもしれません。数学をなんとなく、アナロジー(類推)で理解しているだけかもしれません。

 

ダニング=クルーガー効果と向き合う

実は、この学び初めの段階で、自信を持つ現象のことを「ダニング=クルーガー効果」と呼びます。能力の低い人が自身の見た目や発言・行動などについて、実際よりも高い評価を行ってしまうという認知バイアスの一つです。

名付け親であるコーネル大学のDavid Dunningとニューヨーク大学の経営大学院(ビジネススクール)教授のJustin Krugerの頭文字をとってそう名付けられました。

一点ちゃんとお伝えしておきたいのは、このダニング=クルーガー効果があるからダメとか良いとかそういうことではなく、冷静に見つめることが大切だと思うのです。自信を持っているからダメなわけではないと思います。その分野に関して「わかった!」「できる!」と自信を持つからこそ、学び続けようとモチベーションが高まっていくからです。

ただ、知っておいた方がよいのが、「わかった」と思っているときには、もっと深いレベルでは全くわかっていないということです。

つまり、「問題が解ける」からと言って数学の本質を分かっているかと言えばそうではないし、「数学の本質がわかっている」と思っても、わかっていないであろうということです。

もちろん、自身の内側で「確かにわかっている」感覚があるなら、それは真実だと思います。ただ、そこから見える景色は富士山からの眺めではなく、高尾山からかもしれないということに他なりません。

生涯学び続けるということは、学び続けられるということは、わかりきることがないからだと思います。学べば学ぶほど、わかっていることは何もないと気づける。

私自身も自分の無知さと向き合いながら、日々勉強し続けていきます。

引用:The Anosognosic’s Dilemma: Something’s Wrong but You’ll Never Know What It Is (Part 1)- The New York Times

<文/堀口智之>