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「ニューメラシー」こそ、すべての社会人に必要な能力

ニューメラシー(numeracy)という言葉はご存知でしょうか。

実は、OECD(経済協力開発機構)の国際成人力調査(PIAAC))で評価される指標3つあるうちの1つが「numeracy」です。(ニューメラシー、ヌメラシーとも読むようです。)

「成人力調査」とあるように、大人に必要とされる能力の一つで、numeracyをそのまま日本語に直すと「数的思考力」と解釈されているようです。(国立教育政策研究所(2013)資料より※1)

この2つの単語の組み合わせで出来ている言葉です。

numeracy=numerate+literacy
     (計算する+読解力)

numeracyとは何か。有名な解釈としては、以下3つの力であるとされています。

・数に対しての慣れ
・生活の中で数を扱うための能力
・数学的用語で表現された情報を正しく理解し評価する能力 

ーコッククロフト報告(1982)

1つ目の、数に対しての慣れ、は「算数」かもしれません。そして、生活の中で数を扱う力も算数という領域です。しかし、数学的用語で表現された情報を正しく理解し評価する能力という3つ目の視点は明らかに算数を超えているように思えます。

例えば、1例をあげても、「金利」や「複利」という言葉は、数学用語(の応用)の一つですが、算数という領域を超えてしまいます。指数関数や、等比数列の和などの知識が必要になってきます。

実際、複利で貯金や投資をすれば、右肩上がりにその額が上がっていくはずです。グラフの読み取りの場面で、右肩上がりに急激に上がっていくグラフのことをよく「指数関数的に増加」と表現されますが、これも日常でよく使われる数学的情報にも関わらず、算数の知識だけでは、正しく理解し、評価することは難しいです。(もちろん、算数をうまく使えば理解はできると思います。)

最近では、コロナウイルス感染拡大による影響で、「基本再生産数」という言葉や「実効再生産数」という言葉も出てきましたが、すべて指数関数に紐づく、どのくらい拡大するかを数学的に表現した専門用語になっています。

他、大きい数の取り組みも、大きい数がこれだけ日常にあふれているにも関わらず、万や億や兆という単位自体は算数では扱いますが、実際のところ、万や億や兆、あるいはそれよりもずっと大きな単位が社会の中でどういう意味を持つのかは実際のところ学ぶことはありません。

本当に必要なのは、実は、日常に溢れる数字や数学の用語をどれだけ解釈・評価ができるかが、社会を理解するための必須の能力です。

numeracyとは、そんな可能性ある能力の一つとなっています。

数的思考力と言われたり、数学的リテラシーと言われることもあれば、google翻訳をすると「数秘術(※)」といった全く違う翻訳になってしまうこともあるので要注意です。

 

アメリカの「ニューメラシー」を探る

アメリカの「THE NATIONAL NUMERACY NETWORK(NNN)」(※2)では、「numeracyとは?」という項目の中で、

・・・これは1959年の英国の「Crowther Report」で最初に使われた表現で、中等学校の生徒の”高度な量的問題”を推論し、解決する能力、科学的方法の基本的な理解、日常生活の中で量的な問題について、高いレベルで明らかにするという能力を含むものです。これを定量的リテラシー(QL)と呼ぶこともあり、数値データを扱う際のこの快適さ、能力、および「心の癖」を、以前の世代の「読み書き」と同じくらい、今日の定量的な表現が溢れる社会では重要であるとされています。
また、定量的データによって裏付けされる洗練された議論を理解・作成するために必要な高次の推論力と批判的思考力に重点を置いた定量的推論(QR)とも呼ばれています。

明らかに、算数の領域だけではなさそうです。統計学やデータ分析の基礎的な力を用いて、社会を読み解く力、さらに、クリティカルシンキングや推論の力も必要、と表現されています。

 

イギリスの「ニューメラシー」の定義は

さらに、「ニューメラシー」という言葉は、元々はイギリス発祥でして、そのイギリスの「National Numeracy」(※3)の「numeracyとは?」で表現されている言葉を引用します。

「ニューメラシー(numeracy)」には、教室では必ずしも教えてくれないスキルが含まれています。それは、生活のあらゆる場面で役立つ数字や数学的アプローチを使う自信とスキルを身に着けることです。「numeracy」は、「literacy(読み書きの能力)」と同じくらい重要です。実際、「mathematical literacy(数学的リテラシー)」と呼ばれることもあります。現代の生活で機能するためには、両方のスキルが必要です。
・・・
numeracyは、数学が現実世界でどのように使われているかを理解し、可能な限り最善の判断を下すためにそれを適用できることを意味しています。それは例えば、「合計を取る」と同じように、様々なデータ・物事に対して思考や推論をすることです。
・データ、チャート、ダイアグラムの解釈
・情報を処理する
・問題を解決する
・答えを確認する
・解決策の理解と説明
・論理的思考と推論で判断する

このニューメラシーは認知度が非常に低く、「算数」とシンプルに解釈されている方とお会いしたこともありますし、数的思考という言葉で表現されることもあります。

もちろん、numeracy自体が定義が明確に決まっているものではありませんが、上記を見る限り、非常に重要な能力であると考えています。

このような力が養われる、「numeracy」が我々の基礎となるような社会を目指して、今後も数トレ教室を続けていきます。

 

参考・引用WEB

※ 数秘術とは、西洋占星術や易学等と並ぶ占術の一つで、数字そのものに対して占いの要素を持ち込んだものです。紀元前、ピタゴラスの時代から研究・使用されてきたものとされています。

  1. PIAAC日本版報告書「調査結果の要約」|国立教育政策研究所 National Institute for Educational Policy Research
  2. National Numeracy Network – What-is-Numeracy
  3. National numeracy – what is numeracy?

<文/堀口智之>