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数学の肌触りを得る方法(「数学ゴールデン」2巻発売記念)

こちらの記事に掲載させていただくコラムは、「数学ゴールデン」2巻発売記念として、ヤングアニマルZEROに掲載させていただいたものになります。担当者様のご厚意により、掲載させていただけることとなりましたのでぜひご覧ください。

 


数学が苦手なのは、本当ですか?

「数学は苦手なんですよ。」大人のための数学教室で出会う多くのお客様はそう口にします。中学生の5人中3人が苦手意識を感じているというデータもあります。でも、本当に、苦手なのでしょうか。

こんな事例を考えてみましょう。

初めての通勤ルート、歩いていたら、ふと段差があって、転んでしまいちょっと恥ずかしい思いをしたとします。次の日、もう一度その段差で転ぶでしょうか。きっと転ばないでしょう。昨日、躓いてしまったので、十分気を付けて歩くように意識するはず。

これが意味するのは何か。日々、我々は一つ一つ学びを得ながら生きているということです。学ぶことは何も特別なことではありません。学ぶことはごくごく日常的な行為であり、当たり前のことの一つではあります。

数学も実は同じようなものです。当たり前のことの積み重ねと考えてみてはいかがでしょうか。

2を5回足さなければいけないときにどうやって足すでしょう。もちろん、順に数えてもいいはずです。2+2+2+2+2は、2、4、6、8、10というように。これは掛け算の学びによって、2×5=10と九九を学習していれば一発で答えが出るはずです。これは簡単な掛け算なのでまだ威力は感じないかもしれませんが、大きな数になればなるほど足し算ではない、掛け算の有効性が見えてくるはずです。

マラソン大会があったら、最初から歩く人はいないでしょう。出来るだけ早く到着するために走り始めるはずです。我々この肉体をもってしてできる最速の移動方法は、走りだからです。そして、出来る限り目的地に到着しなければいけない状況であれば、遠回りよりも近道を行こうとするでしょう。これはごく自然な発想です。

1皿に6枚のクッキーが185皿あったとき、最初から順番に数えようとするでしょうか。「6、12、18、24・・・」と。日が暮れてしまいそうです。

せっかく掛け算という武器を持っているなら、それを利用しましょう。6×185となれば、筆算を習ったはずです。6×1と6×8と6×5。3つの九九を覚えているだけで、簡単に答えを出すことができるでしょう。

つまり、過去、ある場所で躓いた先人たちがいたのです。数学での学びは、すべてその先人たちの教えなのです。「ここに段差があるよ。」「私は何度も躓いたよ。」という教えなのです。

すべての公式は躓かないようにするためのものなのですが、どうやら、どこで躓くのかがわからずに学ぶことが多いのです。躓きやすい場所ではなく、躓かないためのコツだけを学んでしまう。つまり、数学そのものが目的化する傾向があります。

中学に入って数学を学び始めたとき、数字を「x」と記号で置くのも同じです。どんな数でも、どんなモノであっても、答えが一瞬で出るように、数字を「x」という文字に置き換えて、数字を入れるたびにわざわざ面倒な式を計算しないようにする工夫なのです。必要性があるからこそ、数学は積みあがっていると考えてみてください。その必要性とは、段差に躓かないようにするための有難い教えなのです。必要なのは、頭の良さではありません。日常と同じ学びととらえられるかどうかです。

私の個人的な印象では、この日常を生きるほうがよほど難しく、複雑な問題です。今日を昨日と同じように生きていても、うまくいくことがあったり、うまくいかないこともあったりと一筋縄ではいきません。数学はちょっとだけ日常生活と遠いように見えているだけで、文字や記号で出来ているだけで、日常と同じような学びがそこにあると思うと、数学の苦手意識はグッと無くなってきませんか。

我々に必要なのは、数学を日常と同じように思えるための一定量の練習です。数学はどう考えても日常に思えない。そんな人も少なくありません。それは、数学の中でうまくいったり、うまくいかなかったり、そういった試行錯誤の量が圧倒的に足りないのです。

我々はこの世に生まれてから、驚くべき成長を遂げ大人になっていきました。赤ちゃんのときには、かろうじて手にとったおもちゃをすぐに口に突っ込み、時に投げ、モノの形や素材、仕組みをしっかりと確かめる行為を何度も繰り返ししてきました。立って歩き始めるときもそうです。何度も転び、時に擦り傷を作りながらこの世界をうまく生き抜くように成長していったのです。

数式の肌触りとはどんなものでしょうか。どんな形をしているでしょうか。時に段差で躓くのもよいでしょう、なぜ躓いたのかを振り返ればその「公式」の必要性が見えてきます。数学とは、試行錯誤の中で得ていくものなのです。

「試行錯誤の量が足りないだけかもしれない。」

そんな発想にふと変えてみれば、苦手なのではなく、数学のことをただ単に知らなかっただけなのもしれない。そんな気づきを得られるのかもしれません。

 


さらにコラムを読みたい方へ

このコラムを掲載させていただいた「数学ゴールデン」単行本2巻が2021年2月26日に発売!堀口執筆の2つのコラムもこちらの単行本内に収録されています。ぜひご購入頂き、ご確認ください。

今回掲載させていただいた担当者様の懐の深さに心より感謝です。

 

参考リンク

数学ゴールデン 2(ヤングアニマルコミックス) (日本語) コミック – 2021/2/26
藏丸 竜彦 (著)