日本数学教育学会誌に掲載された衝撃的な研究「数理科学的意思決定力の育成に関する調査研究(2015)」(清水 宏幸他)をご紹介します。
現実社会でよくでてくる様々な課題に対して、数学を用いて意思決定する力の育成を図りたい。そんな想いで実施されたこの研究は、本文から引用するに、
「その結果、児童生徒に対する調査からは、基準を設けて適切に数値化すること、自ら仮定を設定して問題解決すること、複数の項目に着目して判断することができる児童生徒が少ないことが明らかになった。」
引用:数理科学的意思決定力の育成に関する調査研究
と、しています。しかも衝撃的なのは、小学生と、高校生で正答率がほとんど変わりなかったことです。
具体的にはこの問題。
北小学校では、2008年から、児童の体力を伸ばす取り組みを行ってきました。下の表は、次の5つの種目についての、2007年から2010年の5年生男子の記録の平均値です。(ソフトボール投げ(m)、50m走(秒)、1000m走(分 秒)、上体起こし(回)、握力(kg))
校長先生は、体力を伸ばす取り組みの成果が表れているのかどうかと悩んでいます。5年生の男子の体力が伸びているといえるか、いえないかを判断しましょう。そう判断した理由も説明しましょう。
いえる・いえない (どちらかに〇をつけましょう。)
ポイントとしては、「いえる」、「いえない」だけを解答するだけでなく、ちゃんと理由も付け加えなければならないところも大切です。もし、理由がなければ勘で正解になってしまうので、その根拠こそが答えの正しさの保証となります。
この質問に対して、解答できた割合はこちら。
衝撃なのは2点。まずは、正解まで導けた生徒がごくごくわずかしかいなかったこと。1~3%程度ということですから30人とか100人に1人しかいなかったのです。この問題が解けずにどうやって現実のもっと複雑で難しい問題を解いていくのでしょうか・・・。
さらにもう一点。数値化できて正解だった率は、小学校6年生より高校2年生の方が少ないことです。(最も数値化すらできていないのは中学生です。)高校2年生の方が遥かに高度な内容を習っており、知識も充実しており、人生経験も豊富でしょう。その高校2年生ですらまともに答えられた生徒は少ないのです。
高校2年生の習得度合いは明らかに小学6年生よりも高いはず。その高校2年生ですら、解けていないということは、今の学校の数学カリキュラムが問題解決のために構築されていないということを意味するのでは、と個人的には思ってしまいます。
もちろん、この問題だけで「今の数学カリキュラムが・・」というつもりはなく、他にも問題が掲載されています。また、どの学校の生徒のデータか?、統計的な正しさはどうなのかとか、気になるところかもしれませんので気になる方は原文を読んでいただけたらと思います。
この研究結果を学校の先生はどう捉えているのでしょうか・・・。もちろん、問題解決能力を鍛える場所ではない!というのも一つのご意見かとは思いますが、今後の数学教育の目的そのものを考えなければならないものとは感じています。
だからこそ、大人の数トレ教室では、引き続き、問題解決につながる数学を提供していきます。(気になる方は、数学的思考基礎セミナーのページなどを覗いてみてください。参考:数から学ぶ数学的思考基礎セミナー)